破瓜トランス/魚屋スイソ
 
書の表紙のような 誰も泳いでいない水へ潜って 嘘を吐く 人間は体温を失くすと死ぬ 赤になる 逃げ惑った大人たちの顔が次々に落下していく 身体だけ残った者たちは 無言の叫びを完成させると 揺れ続け 震え続け 散り散りになって消えていった 両腕の傷が酸素を欲しがって甘えている 少女は駆けて アスファルトに描かれる別れを見送り 海へ向かった 世界中が呼んでいる きよらかな金属と いとけない殺意 濡れた真空管は 胎動する熱を反転させ 電気信号のゼリーを通して真白い過呼吸を引き起こす 突き破る 透き通らない ターンテーブルが回転している わたしは文学に犯されている
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