音のない洞窟/吉岡ペペロ
乱雑なヨシミの部屋はあざやかなままだ
いつのまにかそこに気配のない突風が吹きつづけているのを幻視していた
風がなにもかもを吹きはらってしまって、それであざやかに見えるんだと、
そんな思考にシンゴは陶然となっていた
ヨシミ、おまえも胸いてえか、
いたいよ、ここらへん、そう言ってヨシミがかるくにぎったぐうを胸においた
男の歌うファドがながれていた
それは繰り返しながれていた
歌詞の意味は分からなかったけれどシンゴはいまのじぶんの気持ちを歌っているのだと思った
いや、いまの気持ちではない、いまこうあるべきだという気持ち、そんな気がした
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