メインディッシュ/渡 ひろこ
が
赤黒いソースで艶やかな白を塗りつぶし
フォークは鈍く光る銀の切っ先で
やわらかなミディアムの断面を貫く
ふと微かに皿が軋む音が聞えた
ヒリヒリとした悲鳴を上げている
隠しておいた薄いヒビ割れに
フル―ティなソースが沁みて
磨いた表面に潜んでいた凹凸に
ナイフが引っ掻き傷をつけている
飽食の下で触れ合う食器が
いつもより半音上げた音を響かせ鳴いた
盛られたメインに応える
クオリティの高さは
持ち合わせていない
見てくれだけで選ばれた器
すでに半分乾きかけたソースは
ドス黒い血と変わり果て
汚れた残骸として置かれた皿は
鴨フィレ肉の確か
[次のページ]
戻る 編 削 Point(19)