メインディッシュ/渡 ひろこ
 
確かな重みと
カシスソースの温もりだけを
回想している


おそらくこれが最後の彩り
一時の泡のような記憶が
執着となってこびり付かないように
急いで洗い流して食器棚の奥深くしまい
ガラスの扉を閉じた


誰もいなくなったダイニング
いつの日かウエッジウッドのようにと
次の出番に焦がれる
ガラス越しの熱い視線が
片づけられた食卓の上に
影のないゆるやかな輪郭を作る









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