蝶の刺青/豊島ケイトウ
れるお月さまのようでもあった若い僕はそんなふうには思えなかったから反論した今では後悔しているその一方で自明の理だったのだと諦めてもいる純粋な泣ける話にはならないだって君がアルバムをすべて焼き払いレントゲン写真のみ残して旅立ったのはつまり蝶を残したくなかったからだろう?
(レントゲン写真に君の刺青は見当たらなかったいくら目を凝らしてもあるところにないのだ)
僕は君の刺青を気が遠くなるまでさすっていたかったそれだけで一年はめぐり確実に生を生きられると思っていた他に何もいらないと言ったのはあながち嘘でもなかったんだ
つき合いはじめて二、三ヵ月目くらいの交換日記を読み返すとよくわかる蝶はそこ
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