つわる/salco
透き通った月面下で
その密やかなコバルトの海の
温水の中で
お前は地上に備えて眠り続け
目覚めた時は思い出したように
その蒼く薄い月の内から
ノックをしたものだ、その小さな足で
腹の皮一枚外に出るずっと前から
指しゃぶりを盛んにして
だが無いものねだりの苦しみなど
まだ知りもせず
細く過敏な神経反射の他は
夢も現も覚えずに
ある時突然
お前の小さな隠れ家は緊張と痙攣とに崩壊し
狭い産道がお前の顔を歪ませて
外へ外へと押し出そうとしていた
苦しげに口をへの字に曲げ
手足と体を硬くして
泣き声さえもまだ知らず
お前は誕生の恐怖と
不当な虐待にじっと耐えるか
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