中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
 
輩と巡り合い、現実の世界へ蘇生させるまでに過ごした、王女との空白の時を失ってしまった事に、深い喪失を感じる。私はよく、観光客達用に綺麗に補修された、白亜の巨城の王女の間の窓辺に立つ先輩の後ろ姿を見ると、何故か無性に切なく、悲しく成る。私は王女の御蔭で、ようやく深い森から命溢れる世界へと出る事ができたのだが、此の言い様のない、虚しさの正体は一体何なのであろうか、原因が分からない。其の問いを何度私自身に問い掛けたか分からない。もしかしたら──此れは先輩には口が裂けても言えない事であるが──、私は王女の事を先輩よりも愛しているのかもしれない。王女がどんな人物であったか分からなくなったとしても、死者を愛す
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