中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
 
愛する想いは消えないし、意味の無い事でもないのだから。私は不幸な人間なのだろうか。それとも、愛する人と一緒に生きていけるのだから、幸せな人間なのだろうか。このまま本心を捻じ曲げずに生きていく事は悪い事なのだろうか。罪になるのだろうか。私が愛している女性─王女─は、どんな顔をしているのだろう。どんな笑みを浮かべるのだろう。私が手に入れたものは、?永遠?よりも尊いものであると、誇りをもって言えるものなのだろうか。私の脳裏に浮かぶバロック音楽もまた、時が経つにつれて、どんどん音程が狂ってきていて、終いには消滅し、二度と思い出せなくなるような気がするのだ。もう一度言う。私は先輩を愛しているのではなくて、本当は?王女?を愛しているという事を。しかし其の王女は、先輩の命と引き換えに、美しく荘厳な白亜の巨城と共に、跡形も無く消えてしまったのだ。
                               了 2010 晩春
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