中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
 

「何?」
 先輩は顔を上げ、真剣な眼差しで私を見つめた。
「僕は現実の世界で、先輩の事を愛していました。だけど、躁鬱病の先輩を救う事ができなかったんです。僕は其の事を、十一年間悔んで生きてきました。もし、此の世界から先輩を救う事ができるなら、今までの苦悩も後悔も、其れ等に費やした時間も全て報われると思うんです。先輩、僕と此の世界から脱出して、現実で一緒になって下さい」
 私はとうとう堪え切れなくなり、溢れんばかりの涙を赤い絨毯の上に幾粒も落とした。すると先輩も涙を流し始め、大きく美しい瞳を潤ませながら、窓辺から私の元へやって来て、抱き付いて来た。
「多分現実の世界の私は、とても弱い人間で
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