中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
 
。私は死んだ老人の腸の様な廊下を歩きながら、窓からの景色を眺めたが、此の白亜の巨城を取り囲む木々が全く風を受けずにただ、枝を広げて立って居る事に異和を感じた。
 螺旋階段を上がり、再び王女の間へ戻って来て扉を開けると、なんと、窓辺に王女が立って居た。しかしよく見てみると、其れは先輩だった。先輩は窓辺で不安げな顔で私を見つめて居た。私は私の中で何かが崩れ去る音を聞いた。
 先輩は私に問い掛けた。
「どうだった?」
 私は一度俯き、再び顔を上げると、先輩に首を左右に振った。
「何処にも居ませんでした」
「そう…」
 先輩もまた私と同じ様に俯き、自分の足元を見つめて居た。
「先輩」

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