中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
 
の答えを返す事ができなかった。私は先輩から離れて、いつも王女が立って居た窓辺へ向かい、再び視線を左右に動かすと、私は先輩と目を合わせた。
「いつも此の窓辺に立って居る王女が居ないのです。僕、ちょっと城の中を探して来ます。先輩は此の部屋で待って居て下さい」
 私は窓辺から離れ、先輩の元へ向かい、彼女の両手を自分の両手で包み込むと、正階段を下り、廊下へ飛び出し、螺旋階段を下りて、巨城の中を奔走した。

 白亜の巨城の全ての部屋を二時間ばかり走り回ったが、王女は結局、何処にも居なかった。ひどくひんやりとしていて、陽が全く入って来ない白亜の巨城は、まるで冷たく成った青白い老人の死体を連想させた。私
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