中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
 
女の唇にキスをした。
「ち、ちょっと…」
 先輩は唇と唇の隙間から言葉を零したが、私が何時までも彼女の唇から自分の唇を乖離させなかったので、彼女は両腕を私の背中に回し、私にそのまま身を任せた。
 どれ位キスをしていたのか分からない。ただ、再び森の奥からパイプオルガンの明るい音が森の入口まで聴こえて来る様になると、私は先輩の唇から私の唇を離し、両瞼をゆっくりと開けて、彼女の両肩から自分の両手を取り除くと、彼女に言った。
「森の奥に在る、?白亜の巨城?へ向かいましょう。此の音は、其処の礼拝堂から流れているのです」
 先輩は私の意味がまるで分からない、という様な驚いた表情を浮かべて居たが、私が
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