れきし/高梁サトル
或るあさ、
女は目に涙をため
「わたしにできるせいいっぱいをつづけていきます」
と言った
聴衆はそれぞれ自分に都合のよい欲望を見出し
彼女に拍手喝采を送った
或るひる、
女は目に涙をため
「つぎのせんきょまでしなないでわたしをささえて」
と言った
老夫婦は腐った蜜柑の皮を剥きながら力なさげに
彼女に深く頭を下げた
或るよる、
女は目に涙をため
「ほんとうにこれでいいのだろうかとなやんでいる」
と言った
部下は名刺の束を肩書き別にパソコンに打ち込みながら
彼女に微笑みかけた
「いいのです、あなたはとくべつなのだから」
そしてハンカチを差し出した
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