中編小説 文芸誌ジョイントオーナーシップ・スペース 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
ことが何一つ無かった。
【二月】
ライトが一つだけ点された文芸誌コーナーに、去年の十一月のように、君は先に僕を待っていた。遠くからでも分かるぐらい、君は髪の毛がボサボサで、無精髭を伸ばしていた。いつもなら僕と合流するまで煙草でも吸っているはずなのに、両手は少し力を込めて握り締められていた。僕が近付いていくと、無精髭の君は少し間があった後、だらしなく右手を挙げ、いつも通りの微笑みで僕を迎えた。
僕がいつもの二倍くらいゆっくりとした歩調で、複雑な心情のまま文芸誌コーナーに着き、彼と面と向かうと、僕よりかなり背の低い彼は、暫く僕の瞳を見つめていた。それから十数秒目を伏せて、
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