中編小説 文芸誌ジョイントオーナーシップ・スペース 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
 
ていなかった。
「このバンド、いいよね」
 僕は君から携帯電話からダウンロードした君のバンドの曲が流れている片方のイヤホンを渡された。時間の経過が止まったような空間の中、大学生達が行き交ういつもの銀杏並木のベンチで君がデビューをしてから一気に知名度が上がった楽曲を聴いていた。僕はふと思った。もし、僕が君と同じように結婚して、もしほんの少し恨んでいる父親に似ている子供が生まれた時、つまり、君と同じ境遇に陥った場合、僕はその怒りを何処にぶつけるのか少し不安になった。けど、僕の父親と君の父親を比べて、僕の悩みなど大したことがないと理解した時に、安堵感が生まれた。僕も時々父親に憎しみに似た感情を抱くこ
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