戦争/佐倉 潮
 
    *

「あぁ完全拡散面だ」

 その時、田畠さんは初夏の空を見上げそう呟いた。
僕には『カンゼンカクサンメン』の意味が何だかまる
で分からない。分からなくっても一向平気でいる。
「田畠さん、おなかが空きましたね」そう言って、う
どん屋にでも連れ込んだらしまいになる話だから。
 だけど、とりあえずサングラスの隙間から上目使い
でチラと空を見上げた。なんのことはない。頭の上で
は全くの青が周囲の山々をまたいでいる。

 田畠さんは今度は視線を地面に落とし僕に言った。
「ねえ。このコンクリートの道も、人間が作った」
 あまりにも当たり前なことなので、返す言葉も見つ
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