戦争/佐倉 潮
 

からずいたら次は「あの京都タワーも人間が作った」
と南の方を指差して言った。それから路上に駐車して
あるフォルクスワーゲンのボンネットを手の甲でコツ
ンと叩いて言った。「この車の部品一つ一つは、人間
が作った」
 それから
「あの瓦屋根も人間が作った」
「ほら、その4つ穴のポストも人間が作った」
「僕等の穿いている靴も、来ている服も全部を人間が
作った」
「この空の青すら人間が作った」
「それは実に 」
 いつになく饒舌だった田畠さんは、そこで言葉を詰
まらせた。僕は「実に」の後があるのだろうと大人し
く待っていた。けれど、ただの空白。

       *

 僕らが再びとぼとぼと歩き出したところで田畠さん
は一言、「戦争」
と低く口にしていた。

 それはまるで焼け払われた荒地を眺める人の言葉に
似た響きをしていた。戦争。僕がサングラスを外し見
上げた空の底には、先ほどの空白の時間が置き去りに
されていた。もう戻ってはこない時代の。





戻る   Point(6)