白い白い土蔵のなかで/吉岡ペペロ
 
も聞こえた

僕は女の子がはいっていったまま空いている玄関に足をいれ

伊藤くん、石川だよ、と二度三度おおきな声で叫んだ

子守唄のような読経はまだ続いている

伊藤くん、石川だよ、と僕はもう言うのをやめにした

伊藤くんのお父さんの読経に僕の声はそぐわないような気がしたのだ

あら、石川さんの息子さんじゃないですか、

伊藤くんのお母さんが出てきてくれた

伊藤くんと遊ぼうと思って、

お母さんは口もとに笑みと人差し指をたてて僕を土蔵に案内した

なんでも伊藤くんはお父さんに叱られて謝るまで出してもらえないのだそうだ

土蔵を僕は見つめてそのままからだ
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