椅子が記号になるために/乾 加津也
 
まで彼のこころゆくまま、洗われていられるように

いつかも、座面に届く、わたしにだけよめる一通の便箋、よまないのはよめない覚悟ができているから、宛も差出もなければそれは、わたしと椅子の「はじめ」への招待、椅子に立ち、わたしは天に、「ん」、を仰いで、ふたつの眼(まなこ)を空にすわせる、儀式のあとは、失われている、みどりの透きまにはためくレター

 すでにわたしは、椅子の葉肥
 もはや、名でよぶ理由もなくし
 ふたりでひとつの、途を、しめせる

わたしは外海で目をこらした、鉄の椅子に座し、不屈のようだった、わたしたちは慎重にめぐり、互いの海を回遊する魚群にまぎれ、こえをあらげ、なげあう
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