プライヴェート・エンド/佐々宝砂
 
こんなにも時間がかかってしまった
でも もう 逃げない
夜風よ いくらでもこの頬にナイフを当ててくれ  

  少女は詰め襟の学生服を着た
  靴下を三枚重ねて履き
  二サイズ大きな靴を履いた
  それから玄関の鏡を見て
  烈しく泣いた

  少女は自分の部屋に戻り
  服を脱いだ
  胸を切り取ろうとナイフを当てたが
  痛みに耐えきれずすぐにやめた
  だが少女の胸には
  長いこと細い傷が残っていた

悲鳴のような風に混じって
耳もとで聞こえてくるママの声
「怖くないのよ 死ぬわけじゃないのよ」
そうだね ママ そ
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