夢見ヶ崎のひと/恋月 ぴの
 
弟と拾ってきた仔犬
団地では飼えないからと母にきつく言われ
泣く泣く拾った場所へ戻してきた次の日

くんくんと悲しそうな鳴き声忘れられなくて
自転車に乗り夢見ヶ崎まで

小高い丘の上には粗末な動物園
今ほど整備されていなかったような記憶あるし
それよりも山肌に作られた防空壕がお気に入りだった

多くの防空壕は固く閉ざされていたけど
掘りかけのまま放棄された防空壕は中に入ることができて
焦げ臭い薄暗がりに弟とふたりしゃがみこむ

何を話したのだろう

プリーツの土埃を叩けば赤とんぼの姿
弟は壕の奥から拾ってきた成人雑誌のグラビアを殊更に囃し
指の間から覗かせた親
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