路地の歌/木立 悟
 


手のなかの金魚がたどる路
響きのための階段を
宵宮の光が駆け上がる
かわいた飲みもの 食べものの跡
においはずっとたたずんでいる



街にやって来た映画の群れ
ひとつの方を向いた顔たち
無色の言葉に飾られて
ただがしゃがしゃと街を出てゆく



陽と雨の募集広告
饒舌すぎて割れた看板
奥まったところに住む薬屋に
治せぬ傷は無いという



天気雨の日にしかひらかない
大女の店の先
いつもできる行列は
声を持たない猫の絵姿



非常階段をのぼり
折れ曲がった魚の
非常階段をのぼり
表情の無い目を通り
屋上の柵につかまり

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