指先の向こうには/AB(なかほど)
 
    あそこあそこ

おばあちゃんのうちは?


ひとつ風の吹いた朝
ゴザの上には嫁人形がひとつ
だけ

今日は来てへんの?

   あそこあそこ



  十

振り返るとしょっぱいばかりの
帰りたい日々と
帰りたい街と
帰りたい部屋があって
部屋の中で
古い絵本を
古いアルバムを
古い手紙を
開くように
めくる指の
いつかのささくれも
いつかの深づめも
いつかの指切り
と同じように消えて

忘れた頃に
あの日の君が
誰かがどこかで泣いているよ
って
その指先の向こうに佇んでいる
のはきっと木枠の窓から見える


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