音のない洞窟/吉岡ペペロ
夏の終わりの空たかくに死者の小骨のようなヒコーキが白くいとしく飛んでいる
ホテルのプールに浮かんでそれを見てたらあたりまえのことに気づいたんだ
耳は水につかってて水の流れの音がした
なんだかじぶんが無音のなかだった
仕事でいちど入ったことあるんだけど無響室ってこんなんだった
いやちがうな
無響室に水の流れの音だけしてるんだ
それはそれでおまえと抱き合ってるみたいで
永遠もいいかな、なんて思うほど気持ちがよかった
それで水面には顔だけでてたんだけど、ほどけた感じの風が吹いたんだ
顔のおもてを撫でていったんだ
そんとき海からでてみた最初の両生類になった気がした
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