ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
 
のたけのこのように。──雨後のたけのこ見たことあるか──楽しくなってくる、鼓動がとまることはない、彼女を思いきり笑わせたい。
(近い、ほんとうに彼女が住んでいたマンションに近いんだ)
 風景を眺めている面接者に、
「ここはいい場所さ。ごらんのとおりさ。俺は朝おきると、かけがねをぴんと指でつまはじいてね、木枠の窓をあける。日差しがすっと差し込んでくる。アルプスの少女も顔負けさ。ベッドから跳ねあがってひばりのようにつんつんと爪先だって階段をおりて」 ……暖炉に薪を入れては燃やし始める。明るい陽光の木々しげる森は緑の歌う光がゆれていて、小川の水面に稲穂を映して、とまどう背を押すそよ風が一人だけの孤
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