ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
ければならないと言ったはずだ。お前の母親、一人の命と、何十人もの工員の命を天秤にかけてみろ。子としての感情をなくしてだ。どっちにいかなければならないかわかるはずだろう。お前、もう高校生なんだろ? 幼稚園児じゃないんだからな」
言うが早いか鳥男はするどい爪で渋谷の服を掴み、大空高く、飛び立った。多義子も鳥男の背にすばやく飛び乗った。行き先は……、行き先は……、切り立つ崖、生物の姿も見当たらない、見晴らす限り原色の、砂塵巻き起こる、だたっぴろい丘…… 荒涼としたそよ風が吹く……
風に乗り、翼をはためかせ、優雅に上空から滑降したりしながら、唇の端をつりあげつつ、(俺も、Sとしての性質に体の芯から
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