ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
ているから……」
翳った表情、沈んだ声で彼はそう言うと、ずんずん奥へ進んでいった。
23 体がむず痒くて、どうにかなっちまう
底冷えのする夜。渡辺は目覚めた。ガタガタふるえていた。虚しかった。裸電球がオレンジ色の光を放っている……薄暗い……ぼんやりと……
開けっ放してある窓から冷たい風がびゅうびゅう入ってくる。もう秋なんだ。脳が重いように調子が悪くなっていく。世界がもう自分を受け入れてくれないような、そんな気がした。
渡辺は憂鬱になると、苦しい煩悶の中、よく散歩に出かけた。どこかに行ってしまいたくなって。憂鬱が吹き飛ぶような幻想的な世界がきっとどこかにあると感じて
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