ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
だと思いますが、誰からも理解されなくとも少なくとも俺だけはダディの見方だよと、農夫は何度も繰り返し呟いていたのです。腹立たしく、むしゃくしゃしていたからでしょう。農夫は一気にトンネルを通り過ぎてしまおうと決心しました。アクセルを踏みかけたそのとき、農夫は危うく人を轢いてしまうところでした。何だってこんなところを人が歩いているんだ……、農夫は確実に心臓が縮んでいました。ですが、その人物を見ると、なあんだ、と安堵し、まさにホッと胸をなでおろしました。
山のふもとで車を左端に寄せて、地図を見ていたときに農夫の目に留まったあのキリストのような男でした。彼は車の窓に顔を近づけてきて、農夫を睨みつけ始めま
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