ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
 
ろすのも僕の仕事ですから」
 この言葉を聞くと、農夫の表情が一変した、般若の相になった。
「こら、てめえ、おれんちの前に勝手に車とめてんじゃねえよ!」
 運転手はとっさに状況を理解できなかった。無意識に蜂蜜ビンの蓋をあけて、指を突っ込んでいた。そしてその蜜がねっとりと付いた中指を農夫の顔の前まで差し出すと、「舐めませんか? 甘くて美味しいですよ……」
 農夫はそっと運転手の腕を脇にそらすと、唇を尖らせて、耳打ちした。
「まあ、それはあとで、で、いいじゃないか、俺はお前と友達になりたいだけだよ」
 サイドブレーキを引いていなかった軽トラが田んぼの方へ後退していた。運転手が農夫に向けて立て
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