ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
 
運転席に座る前に蜂蜜壺に指を突っ込み舐めようと、考えていたからだ。そして、仕事が終わった充足感に包まれながら疲れた体を休めるように運転シートを倒し、だらけた姿勢でechoを一服し、そしてエンジンをかける、その一連の動作が運転手の頭に実現可能な、もはや疑いを挟まないシュミレートとして、脳にイメージされていた。
 農夫は運転手に声をかけた、「その荷物を降ろすのを手伝いましょう」
運転手は不意に現れたこの男に狼狽し、ギョッとし、戦慄を覚えたが、農夫は続けて、
「私はこの家の主です。荷物が届くのをまだかまだかと待ちわびていました」
「い……、いえ、いいんです、お言葉はありがたいですが、荷物を降ろす
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