ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
感情を押さえ込んでいるようなそんな息苦しさを感じると、農夫は欲望のはけ口をその行為で代償するかのように貪るようにその木くれを舐めまわしていたのだった。『穢れた世界は美しい』農夫の思想はその一点にだけ集約されていた。彼は自称アブノーマリストと隣村まで宣伝しまわっていた。それは宣伝というよりも、酒に酔った農夫の咆哮であったのだが。アブノーマルのプロ、だと、専門家、だと、酒に酔っては人目もはばからずわめき散らすのだった。
まもなく、楡の木の前に車がとまった。運転手は、助手席に転がしてある蜂蜜のビンを取り上げると、ダブダブのジーンズのポケットに無理やり押し込み、車外へ出る。金銭を受け取るやいなや、運転
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