ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
 
いるだけで、農夫の暗く沈んだ心も晴れるのだった。木の枝によじ登り腰かけ、あたりの景色を見回した。すがすがしい、少年時代に戻ったようだ。雪崩落ちるように葉がしなだれている。街へと続く赤茶けた道のはるかかなたに車のライトが見え、だんだん、近づいてきている。それは紛れも無く、HB鉛筆を1万本積んだ宅配便だろう。もはや、もう、くる。ライトの照射範囲が一秒ごとに広がっていく。地に下りなければならない。勝負であった。逃げることは出来ない。立ち向かうしかない。農夫はライト、そして、街へと続く一本道の真正面を睨みつけ、木を背にし、全身に力を込め立ちふさがった。足の腿肉に力が漲っていた。農夫は木靴で、土を蹴り上げた
[次のページ]
戻る   Point(0)