ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
ない。その中の一枝は農家の上にまで伸びていて、その腕が、何かを屋根の上に置きたそうだ。リンゴか何かの果物を。満面の笑みを浮かべながら。どうとうとした姿で。だが今は、それは暗くて見えない。農夫はよくこの樹の幹に背もたれし、鳶などを見ていた。パイプを燻らせながら、脳をクラクラさせながら。鳶も農夫を俯瞰していただろうに。鳶は農夫を見下ろし、それがエサになるかどうかをそのバイオスコープのような鳥の視力でもって、くまなく、鳥瞰し終わると、それがわずかばかりだが抵抗力を有する老人だと知り、それをエサとするにはわずかなリスクを伴うとし、弧を描くように山の裾野へと旋回していく。だが、それでよかった。ただ、見ている
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