ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
「そんなに急がなくていいのよ」と、やや逃げ腰で純白のソックスに光沢のあるつややかな、靴をつと、凛の前にそのすららかな足を、突き出してきたのである。ベニヤ板の上に靴を投げ出して。多義子は相変わらず風変わりな女だった。足を高々とあげていてパンティが見えそうなのだ。顔を見ようとするが、魔女のようにとがった鼻先がかすかに視界の片隅に写っただけで、長い髪の毛にさえぎられていて、凛の好奇心はそれに邪魔され満たされなかった。
「どこかとくに……磨いておくところはありませんか? 足の裏が痒くありませんか?」
「……ないわ。靴以外。私は……自分の心は自分で磨くしかないと思ってるから。あなたもそうでしょ?」
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