ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
「俺は靴しか磨けません。靴しか磨きたくない」
彼女の取り巻きが、美の審問官のように、
「こんなののどこが? ほんとにこいつなの?」
多義子は照れ笑いして、「そう、彼なの」
凛は差し出されていた靴を布で必死に拭いていたが、その興奮した脳幹のどこかが叫んでよこした、
「彼女はお前に気があるのさ!」
だが、うっすらとした前頭葉はかぶりを振り、いやいやと首を揺らす。
「違う、それはない。興味本位はあるかもしれないが、それが恋心に変わることはないのさ」
と。
だが、ついつい手が多義子の足首を掴もうとしていた。
「さわられそうだったよ!」と彼女の友達が叫んだ。「こんなのにか
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)