ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
なかった。それがため早寝早起きに関してはこの世の者であらざるがごとく体得していた。
「明日も早い。もう一升飲み干してから、横にでもなるか」
そして、記憶に残らない夢を見て、
「寝坊しやがったぜ、あいつ」と天使。
「いや、やつは走るよ。いつもの時刻には駅前にいってるだろうね」と黒猫が物知り気にいう。「あいつが出かけてからトランプでもしようぜ」
「トランプか、たまにはいいかもな」と天使。
天使と黒猫が遊びに打ち興じているあいまにも、いつものように、だけど、遅れたぶんを取り戻そうと広間の入り口に陣取った蘭野が、次から次へと差し出される靴を磨くのに追われていた時だった。母山多義子が、
「
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