ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
 

 天使が決まり悪げに、
「やや、これは俺が悪かった」
 蘭野凛はぐったりと虚脱したまま木のテーブルに体を預けていた。バックにオーケストラの楽団を従えているのだ。観衆は静かに蘭野を見守っていた。
「俺は何かをアピールすべきなのだろうか? なぜ俺の背後に楽団なぞがおるのだろう。この机の引き出しの中に指揮棒はある。10年ほどくらい前、よく指揮していたものだ。華麗に。きらびやかに」思わず目頭が熱くなった。「俺が刻むよんぶんの2拍子のリズムによって、オーケストラがいろんな、……交響曲からアニソンまで幅広く演奏したものだ。おけさ音頭もやった。俺のよんぶんの2拍子で。……曲が終わると、まばらながら拍手が
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