ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
 
れたことを告げる音がした。突然やるせなさに見舞われた蘭野は、たまらず、たえまなく席を入れ替える観衆に向かって指を突きつけ、叫んでいた。
「いつも、いつも、なに見てんだよ! あなたがたはなぜここにおられるのですか? ファックユー!」
 だが、観衆はノーリアクションで佇んでいる。咳払いひとつするのにもためらっている様子なのだ。
 たまりかねた黒猫が路地裏で、「あれてるねまた」
「頭がおかしいんだよ」と、天使。
「おいおい、見たまんまのこと言いっこなしだぜ、なんの工夫も風情もないじゃないか。風貌のことはねえ言っちゃだめだよ」と、黒猫がなだめる。「あいつだって好きで中枢神経やられてないさ」
 
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