ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
聞かされているが、彼はこの小ホールでどんな試合が行われているのかまだ把握していなかった。そのこともあって、彼は自暴自棄のように酒を飲みまくるのだった。もはや諦めてしまっているのだろうか。
「いや」と、蘭野は考え込む。「この俺を目当てにきているのだろうか? 何のパフォーマンスもしなくなったこの俺を目当てに? だがそれにしてもやつらはなんであんなに静かにしているんだろうか? ここを互いの社交の場としてきているのではない。出入り口でやつらに会っても、やつら同士では何も話していない。やつらは赤の他人同士なのだ。俺に軽い会釈をしてくる。その態度はこの小ホールの舞台上で俺が暮らしていることを知っている姿だ。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)