ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
エピローグ
絨毯のようにぶ厚い、真紅のカーテンがだらんと無造作に垂れ下がったこの小ホールで、今日もまた観衆を前に、蘭野凛が酒を飲んでいた。
昨夜、一人の男を殺しそこなって帰ってきたのである。その殺されそうになった男は重い鎖を巻きつけられて海の底に捨てられた。死んだフリをするのが大変そうだった。生きているのがバレたら本当に殺されてしまう。が、鎖を巻きつけられているのだ。この状態のままでも溺れて死ぬに違いなかった。それでもじっと死んだフリをしていた。蘭野は男の心理がわかっていた。海に沈めなければならなかった。だが、その死んだフリをしていた男は海に投げ込まれるやいなや、得意の縄抜け
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