『渦の女』/川村 透
 
こう岸を望み
振り向いて僕を促すように和装じみたクラシカルな衣装の裾を翻すんだ
途端に彼女の、
足元から渦潮が生まれて青の絵の具のように溢れ交差点を飲み込んでゆく
昆虫人たちはたちまち流れに足を取られて
あわてて--ブブ--と羽を鳴らし、いっせいに宙に浮かんだ
人型の虫たちがスクランブル発進するさまは、金色の嵐、みたいで彼女を
見失いそうになる
と、もう、彼女は
交差点の向こう岸でくるくると日傘を操っているではないか
僕と彼女を隔てている道路にはとうとうと川が流れ渦を巻いている
彼女が手を振っているその白い手袋から細い糸がほつれ川底を渡って僕
の足元にまで届いている
あわ
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