ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
 
る。暗闇の中にいると、洞窟が音を立てて崩壊してしまう怖さを感じた。
 僕は真剣な面持ちで、唐突に、
「ここに住もうよ。ここで暮らそうよ」
 すると、ちょっと驚いた顔をして、多義子は、
「ごめんね」と、そくざに答えた。彼女の目が潤んでいた。
「なんで……」──それ以上何も言えず、黙り込んでいると、絶え間なく睡魔に見舞われて、なんだかすべての事がどうでも良くなってしまった。
「もうねよう」独り言みたいに僕がボソッと言うと、多義子が肩を寄せてきて、
「私を彼女と思っていいよ」
 と言った。
 僕は黙って首を横にふった。──疲れがどっと出てきて、ふだんのようには考えられなかった。ただ、ま
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