ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
ていた。とても奇妙なところだった。洞窟はそう奥深くまでは行けず、わけのわからない文字が彫り刻まれた壁にすぐ突き当たって、それ以上は進めなかった。
「おかしいわね、まえはいけたのに」
外はだんだん雨が激しくなってきていた。雨水が洞窟の中に流れ込んできて、地面がぬかるんでいった。雨の中、きた道を引き返す気にはなれなかった。──「あそこまで行きましょ」──多義子はそう言うと、片隅にあった大きな岩によじ登った。降り注いでいた光も気がつくと、だいぶ弱まっているようだった。周囲は暗く、僕はとてつもなく眠くなっていった。そういえば、まだ僕らは出会ってから一睡もしていなかった。多義子は美しい横顔をしている。
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