ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
 
て、輪っかを幾つも作っていった。そして、──小声で、
「あの青年は彼氏?」
 僕の耳に多義子の笑い声が聞こえた。けらけらと、人を馬鹿にしたような高笑いだった。
「違うわよ、そんなんじゃないわよ」
「そんなふうに笑ってやんなさんな。彼、やさしそうじゃないか」──
 僕もタバコを吸おうと一本取り出していると、いきなり、多義子が叫んだ。
「運転手さん、ここで降ろして!」
「こんな山道でか?」
「そうよ」
 急カーブでタクシーは止まった。新鮮な空気が辺りにはあった。
「ありがとう」
 そう言って、タクシーから降りると、多義子はガードレールを跨いで、
「近道していきましょう」と、彼女
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