ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
そうこうしているうちに、タクシーは山道を登り始めていた。
「おじさん、孤独?」
「ああ、孤独だよ」
「私も孤独よ。……ねぇ、人を好きになったことある?」
「あるにはあるが、ずいぶん昔の話だな」
山林はちらっとバックミラーで僕の顔を見た。目と目が合った。僕はすぐに目を逸らした。彼らの話にはついていけなかった。窓を流れる木々を見ていると、少し睡魔も襲ってきて、ときおり目をつぶりながら二人の会話を聞くともなしに聞いていた。
「いつか淋しさを捨てられたらいいね」
「ああ。そうだな」
山林はタバコをくわえ、火をつけた。そして、この世は楽しいんだよと言わんばかりに、煙をパッパと吐き出して、
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