ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
テレビを見ていた。タクシーが二、三台停まっていた。
「ライター貸してくれませんか?」
と、頼んでみると、おっさんは窓から頭を突き出して、
「ライター? マッチならあったかも」
と、ごそごそ引き出しをかき回し始めた。やがて、一台タクシーが営業所に戻ってきた。六十前後の、白髪を角刈りにした男がタクシーから降りてくると、マッチを探していたおっさんが、
「山林さん、この人がライター貸してくれって」と、声を張り上げた。
山林は胸ポケットに手を突っ込むと、
「やるよ」
とハスキーな声で言い、百円ライターを僕に向かって投げてよこした。タバコに火をつけていると、僕の胸に喜びが沸き起こった。
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