ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
 
ね……、私もよ」
「昔、あそこに猫捨てに行ったことあるんだ。母と姉と僕の三人で。家の壁から猫の泣き声がしてたんで、壁ぶち破ったんだ。そしたら子猫が二匹出てきたんで、育ててたんだけど、母親が猫大嫌いだから捨てろって言って、それからだよ、タバコ吸いだしたの。酒もだね」
 多義子は興味なさそうな顔をしていたが、急に身を乗り出させると、
「あっ、聖書あるじゃん。読むんだ?」
「いや、持ってるだけだよ」
「読んだらいいのに。私ね、壁にいろいろ変なものが見えていたのね。幽霊みたいなものがね。タバコの灰が落ちて蛾になったりもしたなぁ。だから見たでしょ、灰が落ちないようにひねってタバコ吸うようにしてるの
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