ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
といって僕に何ができるのだろうか。それもたった一日だけ……
『蘭野! 俺に向かってそんな口をきいて、てめえわかってんのか? クビだ、お前なんか首だ! とっとと……』
班長がそう叫んだとき、僕は意を決して、キリストの顔に触れてみた。熱かった。冷却水を出さずに打ち続けた銅は、熱いなんてもんじゃなくて、僕の人差し指の腹は、銅に一瞬くっついたあと、手を放したら、皮膚がめくれてとれちまった。僕はやけどしちまったんだ。
『熱い、熱い!』って、そう叫びまわりながら、僕はしばらく人差し指を見つめていたんだ。赤く爛れてしまっていて、皮膚がはがれて爪の先からぶらさがっていた。そして、僕はもう工場にはいなかった
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