ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
 

「大変だったんだね」
「まあね。朝起きるでしょ、四時半とかよ。現場まで移動しなきゃなんないんだから。前日も遅くまで働いてたりしたあとでよ。睡眠不足で仕事になんか行きたくないし、もう人生どうでもいいって感じよ。何とかおもちゃ屋に行きたいってそれしか頭になかったわ」
「僕も働いてるときつらかったなぁ」そして、数秒沈黙した。昔の出来事が映像になって頭に浮かんだ。
「あのね」と、僕はかたりだした。「珍しく緑色した自動販売器の前に立ち止まったんだ。コーラを飲むつもりでね。自動販売機はところどころ錆びついていて、くすんだプラスチックケースに蛾の死んだのが、いっぱいいる。横を流れるドブ川は、虹色の油が浮
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