ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
 
いでしょ。私、後ろ髪引かれる思いで何とかもと来た階段まで戻って、家に帰ったんだけど、またあのおもちゃ屋に行ってみたくなって、仕事休んで行ったりしてたわ。熱があるとか、そんな嘘ばっかりついて」多義子はうふふと笑った。「眠かったなぁ、あの日は」
「眠かったあの日……、ロマンティックだね」
「そうかな、全然そんな感じじゃなかったよ。エキサイティングに興奮してたんだよ。さっきのあんたみたいに」
「なんか、また、おもちゃを見に行くってのにロマンティシズムを感じちゃうな」
「そう? でも必死だったりもしたの。ふふふ。会社にばれちゃっててね、本当は仕事がきついから来ないんだろぉ? とか言われたわ」

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